60年代製作の寄宿舎もの。これだけでそそられる。「寄宿舎 悲しみの天使」の美的感覚と同性愛的雰囲気はそのままに、そこに「蠅の王」の子供たちだけで隔離された状況に生まれるサディズム感を取り入れたような内容。上映時間90分。間延びすることなくコンパクトにまとめられた傑作!現時点ではDVDにはなっていない。
監督は「ブリキの太鼓」のフォルカー・シュレンドルフ。思い返してみても意味不明なあの映画。気持ち悪くなるけどまた観てみたい。そんな映画を撮った監督なので、良くも悪くもこの「テルレスの青春」も一筋縄ではいかない。
主役のテルレス(Mathieu Carrière)。学識があって普段から詩などを書きためている少年。端正な身のこなし。口にすることが哲学的でよくわからない。無理数の存在が許せないらしく、数学の先生へ質問攻めし困らせる。そして彼の周りで起こったいじめの状況を、その無理数の話と関連付けて、教授たちのところへ抗議しに行く。おかしな奴だとしか思われず、こんなところやめてやると、寄宿舎を出ていくのだった。
子供たちの関係がおかしくなったきっかけは些細なことだった。少しどんくさい小太りのバジーニが、友達のお金をこっそり盗んでしまうのだ。周りの抜け目のない少年たちはこの事件を見逃さなかった。ここぞとばかりにバジーニに付け入って脅し始める。そして彼らの好奇心を満たすために、バジーニをおもちゃのようにするのだった。もともと、バジーニがお金を盗んでしまったのも、彼らが仕向けた罠だったように思う。
少年たちは、いろんなことをバジーニに強要する。繰り返していくうちに、彼らも飽きてくるし、バジーニ本人も、いじめられることに慣れてくる。そうなったら、また新しい一歩踏み込んだことをバジーニで試すといった、負の連鎖が繰り返されていくのだった。彼らがバジーニを連れて行くのは薄暗い屋根裏部屋。ろうそくの明かりがゆらゆらする中で、バジーニは裸で歴史の教科書の残酷なページを朗読させられたり、催眠術を掛けられて痛みの感じない体にさせられる。腕に熱した針を刺してもぴくりともしない。
いじめっ子の側にいたテルレスだったが、バジーニを助けたいと思い始める。ただ、バジーニの肩を持つと今度は自分までいじめの対象になりかねない。そこでテルレスがとった行動は、何も言わずただ傍観することだった。この寄宿舎で起こったテルレスを含む子供たちの構図は、ユダヤ虐殺を見て見ぬふりをしたドイツ人のエゴイズムに重なるのだそう。この映画の原作は、ヒトラー政権下で発行された「若いテルレスの惑い」。映画でのいじめられっこバジーニはどんくさいが、原作のいじめられっこは美少年らしい。「ベニスに死す」のヴィスコンティが映画化を企画しただけはある。ただテルレスとバジーニがどちらも美少年だったら微妙で、バジーニがあんなんだから妙にリアルでより残酷な内容に思える。
クールで冷静なテルレスだったが、寄宿舎にいる数少ない大人の女性の部屋に行ったときだけは、恥ずかしそうにしていた。
テルレス(Mathieu Carrière)
屋根裏。
助けておくれ。テルレス!
寄宿舎の様子。
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