この映画はDVDで何度も観ていて昨晩また観た。ふとした時に味わいたくなる雰囲気。広々とした自然、さびしい街、母親の疲れ切った表情、など。なんといっても2人の兄弟の気持ちがびんびんと伝わってくる。この種の子供の心情が伝わってくる作品は他に観たことがない。自分が子供の頃の、なんとなく思い出したくない記憶をつつかれる感じ。今回は映画を観ながらポイントになるところをメモしていった。まずは「お父さんが帰ってきているわよ」と聞かされた時の2人の反応。どうなるのだろうと、ぞわぞわする。そして予想のつかない、不安ばかりの旅が始まる。
兄 アンドレイ(Vladimir Garin)
兄と弟の性格の違いもしっかり現れる。アンドレイはなんとなく情けない。父親と初めての食事の場面、父親が2人にお祝いを兼ねてワインを飲むよう言う。父親に認められたいアンドレイはほとんど飲んだことのない赤ワインを嬉しそうに、むしろ媚びるように飲む。「もう一杯」とまで言うが、「もういい」と父親に制される。アンドレイの思惑は上手く行かなかった。ここで、自分が父親のために変な気を使っているということが相手に察せられてしまう。また、就寝時の弟イワンとの会話の「すごい筋肉だったな」や、父親から財布を預けられた時の「すげえ入ってる」など、父親を凄い人物だと思いたいことがうかがえた。
弟 イワン(Ivan Dobronravov)
兄とは違い、弟のイワン(Ivan Dobronravov)は、父親を受け入れられないというか、なんだこいつ、とまるで得体のしれないものと接しているかのようだった。「パパ」と呼ばない。父親がいないところでは「あいつ」呼ばわり。斧で切り刻まれるかもしれないと思っている。父親に忠実であろうとするアンドレイの傍ら、自分の意見を曲げない。お腹がすいていても、父親に言われるがまま入ったレストランでの食事はとらない。情けない兄貴を言いくるめてしまう。さっぱりしていて好感の持てる少年だった。
父親。
父親については一見すると威厳があって立派な父親のように思える。旅の途中には息子たちに教えられることは教えていく。しかし話が進むにつれて、息子たちに対して臆病になっているような場面がちらほら現れる。実際のところは、この映画では不完全な父親を表現しているのだと思う。弟のイワンが、父親に向かって本音をぶつける場面がある。探り探りな父と子のやりとりの中、この時のイワンの発言がそんな関係を最初に吹っ切ったのだった。「どうして今更帰ってきたんだ。あんたなしで上手く行ってたんだ。・・・」。これに対する父親の第一声は「お母さんが、提案して」だった。そのあとに「俺もそうしたいと思って」と付け加える。父親からしてみても、息子たちとの距離感をつかめていないことが浮き彫りになった場面。また、アンドレイがなにかジョークを言い父親は笑うという緊張がほぐれる場面がある。お互いの距離が縮まりそうになったそのとたん、父親の方から会話を遮ってしまう。最後まで乗らない、乗れない父親だった。
いろいろ書いてみたが、感じたことを文章にするのは難しい。
この映画の緊張感の継続は凄いと思う。最初から最後まで目が離せない。劇中に数回、スコールみたいな雨を降らして3人をびしょ濡れにするのが効果的。一生懸命運んだ父親を失ってからの、写真のスライドショーはむなしすぎた。
この目つき。
楽しそうな場面もあるのだけれど。
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