2014/07/15

ぼくの小さな恋人たち (1974)

Mes petites amoureuses (1974) ★★★★★

2年ほど前にレンタルVHSで一度見て、ずっと記憶に残っていたこの映画。いつかDVDを買っておこうと思っていて、ついに購入(中古で約8000円)。なぜこれほど気に入ったのかわからないが、間違いなく主役のマルタン・ロエブの存在は大きいだろう。

少し影のある少年、ダニエル(Martin Loeb)を中心に、ほんとに何も起こらない日常風景が淡々と描かれているだけである。特に、人物が歩くシーンが多くて、本編の3割はただ歩いているシーンだけを見せられたのではないかと思われるほど。それだけ単調で、どうしてこのシーンにこれだけの時間をかけている?と間延びしているようにも思われる。

ただ、そんな場面の中に、なにか美しさみたいなものがある。もちろん、主役のダニエルもかっこいいのだが、彼を取り巻く人間関係が、どこか冷めていて、静かで、ほとんどキャラクター性が分からず、普通の映画でこれをやってしまったら、面白味の何もない駄作になってしまうだろう。ただ、この映画の人物たちは、それでもうまく存在感を出しているように思う。無駄口を一切たたかずに、それでも横一列になって街を歩いていく様子は、ファッションショーか何かのウォーキングを見ているよう。

ダニエルは、ロボットのように、何を考えているのか不明な少年である。頭脳明晰で、試験の成績がよく、新聞に載るほど。しかし「何がしたいの?」と聞かれても、「別に何もない」といい、「卒業したら、僕はお母さんの所へいくらしい」と、自分のこれからの生活なのにもかかわらず「らしい」で片づけてしまっている。彼の父親はすでに亡くなっているか、どこかへ消えてしまっていて、母親は、別の国の男と不倫の関係にあった。中学を卒業すると同時に、近所の幼馴染とお別れをし、母親と男と町に移り、3人で暮らすことになる。収入がなく、せっかく奨学金で高校に通えるのにもかかわらず、町工場で自転車の整備などをする仕事に就かされる。それでも、ダニエルの様子を見ていると、高校に行けないことを悔しがっている様子はあまりない。

ほんとに、どこかの国の、知らない町の、なんでもない情景を見ているだけなのだが、謎の違和感のようなものが画面から伝わってきて、ぼうっと眺めているだけでも心地よい。それこそ、人物たちの歩く様子であったり、ダニエルの、我関せずの振る舞いであったり、一緒にいる仲間のよそよそしさが、その違和感を原因なのではないかと思う。人間的な交流が、ダニエルの女の子へ対する好奇心以外に見られない。

新しい町に引っ越してからのダニエルには、何もなかった。母親は1日中仕事だし、おじさんは畑の仕事をしているとは言っているが、奥さんがいて、どこで何をしているのかわからない。高校へ通って、出来の良い頭を発揮する場もない。そんなダニエルが唯一意識したことが、町の女の子なのであった。後半になるにつれて、ダニエルの関心は女の子で一杯になっていくようだった。男女の出会いの場として知られる並木道をふらふらしたり、なんとなくベンチに座って、目の前のカップルがキスをしているのを眺めている。映画館の薄暗い中で、キスをしている男女を見かけたら、ダニエルも近くに座っている女の子の頭に顔を近づける。そして、思い切ってキスを試してみるのだった。修理工として店の番をしているときも、街行く女性たちを眺め、この時間帯にはあの女性が来る、毎回違う男と一緒にいる女性がいる、という感じで町の女性たちを観察したおす。

終盤になると、青年たち5人ぐらいが一緒になって、全力で女の子をナンパしに行く流れになってくる。ダニエルも、そんな年上の仲間たちと一緒になり、異常なほどにすました様子で、カフェのテラスから女の子を眺めているのだった。慣れないたばこをふかし、足を組んで、男たち全員が同じ視線を女の子たちにおくるのだった。

そして、いよいよダニエルが1人の女の子を捕まえるラストシーン!これまでの違和感が最高潮に達して、不気味過ぎるほどにひたすら歩く!草木が生い茂る中に一本通った長い道を、ダニエルともう一人の男が一緒になって、前の二人の女の子を追いかけて行くのだ。先頭を行く二人の女の子、追いかけるダニエルと隣のもう一人の男、そして抜け駆けを許した残りの男たち三組による、女の子争奪徒競走である。少しぐらい早歩きになっていいものだが、全員が決して焦ることなく、あくまで澄ました様子で道を進んでいく。 それで、ようやくダニエルが女の子に追いついて、唇へのキスを勝ち取るのだった。その瞬間の二人を、ぐるっと回るように映すカメラ。風にそよぎながら、日に照らされ金色に輝く草木。そして、あきらめた残りの男たちがUターンをして、来た道を戻っていく様子。完璧!

ただ、そのまま恋が実るということにはならず、おそらくダニエルと女の子は、その後しばらく会うことはなかっただろう。その女の子とキスをした段階でのダニエルは、まだまだ幼かった。しかし、夏休みに入り、生まれ育った町に戻ってきた彼は、確実に成長していた。女の子を追いかけた新しい街での仲間たちは、ダニエルよりも年上で背が高くて、ダニエルはいろいろと学ぶ側だった。ところが、もともと居た町に戻ってきて、幼馴染たちと再会すると、彼らはダニエルよりも背が低く、ほんの子供のように見えた。そしてダニエルは躊躇なく、一人の女の子を後ろから抱きしめるのだった。そういうところからも、彼の心持の変化が見て取れる。




自転車3人乗り。 



こんなかっこいいポーズで雑誌読むかな。 



去っていくキスした女の子を眺める。
最後。

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